わたしは生まれてこのかた、植物全般にこれといった関心も持てず、

小さな蛙一匹にさえ悲鳴を上げ、年中日陰の場所を好んで過ごしてきました。

農業に関して全くの無関心だったわけではありませんが、

世間一般にとりあげられる食の問題や多々報道される業界の悪事に

ただ立腹する程度で、瞬間的にしか意識できていませんでした。

残念ながら純粋な気持ちで農業を始めたわけではないので、

気持ちは前向きでもドっと落ち込むときも時々あります。

それでもみなさんと周囲の応援のもと頑張れています。

畑に対する気持ちを少しでも理解していただけたら幸いです。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

畑むかしばなし

(( )内は私からみた関係です。)

その昔、この畑は田んぼだったそうな。

田んぼの主のタネさんは、家と点在する田畑の管理と、

庭で飼っていた馬と牛と鶏の世話を一人でこなすチャッキチャキの働き者でした。

タネさんの夫は戦死し、最愛の一人息子は若くして白血病で亡くなりました。

後継者が途絶えて困り果てたタネさんは、

タネさんの妹の息子・カズオさん(祖父)を養子に迎え、

違う村から養女(祖母)を迎え、二人を結婚させます。

タネさん待望の孫長男が誕生し、後に長女(母)、次女と、計三人の孫宝に恵まれます。

男の子を産まなければ何の価値もない、という風潮が当たり前の時代。

長女次女が誕生した際、タネさんも最上級の差別用語を吐き捨てたそうです。

タネさんは孫長男をこれでもかと溺愛し、畑で倒れてからの一週間、床の上で四六時中

孫長男の名前だけを呼び続けながら亡くなったそうな。

タネさんの死後、まだ幼かった孫長男(以下、長男)は精神を患ってしまい、

祖母は人目を気にして外へ出なくなり(この件だけがきっかけではないそうですが)、

家の仕事もめっきりとしなくなりました。

長女(母)は物心ついたときから、長男と家の面倒全般を背負わされます。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

カズオさんは養子にきて間もなく田んぼを畑に変え、貝塚の苗畑にしたそうです。

当時は庭に植える貝塚や庭木が大変人気だったそうで、

この周辺はほぼ貝塚の苗畑だったそうな。

ほどなく庭木も需要が伸び悩み、カズオさんは苗畑をやめて、

いろんな種類の野菜畑を始めたそうな。

野菜畑のあと、イチジク畑に姿を変えます。

カズオさんの実家が伊丹市だったため、当時は実家の住所を利用し、

出荷していたと思われます(兵庫県内ではイチジクは伊丹市と川西市の特産物)。

しばらくはイチジク畑でしたが、2000年頃、突然、

「翌日、畑からイチジクが消えてブドウ畑になっていた」のです。

わたしも畑の変わり様にものすごくびっくりしたのをうっすら覚えています。

ブドウ畑に変わる前からイチジクの出荷作業も辛く、体力的にも限界だったカズオさんは、

観光農園を目指したらしく、一時期「ブドウ狩り」を催していたそうです。

いろいろ苦労もあったようで、思うようにいかず嫌になって「ブドウ狩り」は断念され、

そのブドウ畑も完全に放置され、えげつないゴミ畑に変わり果てたある日、

出かけた十三(大阪)の銭湯で溺れ、帰らぬ人となったのが

2006年のバレンタインデーです。

仕事帰りに大阪駅周辺でブラブラとチョコレートを物色中に電話で知らせを受け、

大黒柱を失い‘今後どうなるのか’という漠然とした不安と同時に、

「自分が農業しなあかんことになるかもしらん」という恐怖に駆られながら、

「これが最後の贅沢になるかもしらん」とチョコレートを買って帰ったのでした。

(大袈裟に聞こえるかもしれませんが、当時の心情です)

突然の出来事にしばらくは悲しんでいる暇はありませんでした。

そもそも 写真は納屋にあるブドウ畑の遺物。側の土手の橋に(許可を得たのか勝手にかはわかりませんが)立てていたのを覚えています。左端上部に手書きで『北へ徒歩5分』とあります。「説明省き過ぎですやん」と笑ってしまいました。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

生前の個人の暮らしに介入することがなさ過ぎると、

故人の軌跡については憶測するしかありません。

足の踏み場もないカズオさんの部屋を片付けながら、

納得できない事てんこ盛りの相続手続きを進める中、

カズオさんに対して申し訳ない気持ちで一杯になりました。

タネさんから受け継いだ大切な土地を、私たちのために売却していたことを

登記謄本を見て初めて知り、心底情けなくなりました。

小・中・高・大学と進学できたのもカズオさんのおかげでした。

家族からのけ者扱いされていたカズオさんは、

家族のためにずっと独りで黙々と資金繰りに奮闘していたのでした。

試行錯誤を繰り返した畑は荒れ果て、残った土地は二束三文。

相談者も理解者も得れず、自分の事より家族の心配をし続け、

80を過ぎて始めた株でなんとか家族を養い税金を払っていたのでした。

私が奮起したはじめの理由です。

申し訳ない。それだけでした。

楽しんで取り組もうという姿勢をなかなか持てず、

慣れない事もたくさんあり、いろんな矛盾と不可解な仕組みの

おかげでしばらくは怒りと憎しみだけが原動力でしたが、

顔も心も老けきった鬼ババになるだけでした。

農の大切さも厳しさも、身をもって知る事ができたのもカズオさんのおかげです。

数メートル歩けば怪我をする状態のぐちゃぐちゃのブドウ畑を

母と一年かけて、土を踏んで普通に歩けるまでにしました。

ブドウの木の撤去後、農地として何か作物を育てていないといけないので、

むかしイチジクが元気だったからイチジクを少し植えるか。

となり、

ついでに自分たちの食べる野菜も作ってみるか。

となり、

怠惰な野菜作りを繰り返すなかイチジクが実りだし、こりゃ大変だ。

となり、

できるできないはさておき、思いついた事を少しずつやってみよう。

で今に至ります。

「ただ単におじいちゃん子だったのね」

と一言で済む話をたらたらと書きましたが、

ここまで読んでいただけたなら十分に嬉しいです。

最後にカズオさんについても少し書いてみたので、よければ一読ください。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

祖父・カズオさん

そもそも写真は大正が終わり、昭和が始まった頃。

●婿養子になるまでは、建築業界を目指し、学生時代には図面を引いていたそうです。

就寝前には翌日着用の衣類をきれいに畳んで枕元に置くのが

習慣だったほど几帳面な人だったそうな(大叔母談)。

そもそも生涯の趣味は、タバコと酒と旅行。

●家に電話があるのが珍しかった当時、ダイハツのミゼットを両ドアなし

(外したか外れたかは不明)で、大騒音で走り回っていたらしい。

バッタカバッタカとあまりにもうるさいので車のあだ名は『バタバタ』。

幼かった母は何度も助手席から落ちそうになったらしい(母談)。

●家にテレビがあるのが珍しかった当時、バイクを購入後、

妻を後ろに乗せて出発したが、恐怖のあまり手を離して道路に転げ落ちてしまった

妻を放ってそのまま単独ドライブを続行したらしい(祖母談)。

●弟が幼い頃のある夏の日、「虫取りに行くぞ」と連れてむかった先は

公園でも土手でもなく、イチジク畑。はしゃぐ弟に、

「ほれ。」と言って目の前でイチジクに付いていたカナブンを真っ二つに割っては、

弟の虫カゴにいっぱいになるまで放り込んだそうな。

それ以来、弟は最近までイチジクを食べることができずにいました(弟談)。

●晩年は普段の身なりが浮浪者に負けず劣らずだったので、

地元の駅前などでたまたま会った時など、カズオさんは変なうなり声をあげて

近づいてくるので、誤解した通りすがりの人が私を助けにはいったりする事もありました。

そもそも写真は2000年前後に大学に通い、倫理学を学んでいたようです。

「人のこころとは…/情けとは…/償うとは…」といった内容のノートばかりでした。

そもそも

社会の規則と常識なんぞどこ吹く風、といった自分勝手な人で、

わたしも少なからず一緒にいて赤っ恥をかかされたり、

度が過ぎる頑固さに腹が立ったりしたこともたくさんありました。

いつも悪ふざけな素振りばかりでまともに話もできませんでしたが、

幼少期、カズオさんに言われたお気に入りの言葉があります。

「人を見かけで判断したらあかん」

「腹が立っても生きなあかん。死ぬのは後や」

今は腹が立ったら土を耕しています。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

10 フィードバック to “そ も そ も”


  1. 1 juka-tan 2013年1月3日 02:40

    ベジタブルキャラバンより、てる子さんのページを知り読ませて頂きました。
    感動しました。
    てる子さんの頑張りにすごく励まされました。
    大阪ガレキ焼却、何とかなくなるといいのですが。。。

    いいね

    • 2 Teruko Ashida 2013年1月3日 14:06

      juka-tanさま★ 虫くいと雑草とミミズだらけのブログにようこそおいでくださいました、ありがとうございます。笑。 
      そうですね〜…、さいごには大爆笑できるような「仕掛け」で、状況を一転できればいいのですが…。
      マスコミも無視できないような、おもしろい発想求む!ですよね。笑

      いいね

  2. 3 doico 2011年4月27日 12:45

    久しぶりに開いてみたら、めっさ頑張ってて感動した。
    カズオさんのページもあって祖父孝行やな、てるちゃん。
    てるこはカズオさんにガッツが似たんやな。
    ぶれなかったカズオさんは格好いいと思う。
    君も格好いいと思う。
    お互いたくましく生きましょう。

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    • 4 てる子さん 2011年4月27日 14:23

      doico★ ありがと(^з^)-☆ ガッツは良い意味で似たと自覚してる。笑。でも短所の頑固で気分屋なとこもがっつり似てもうてるけど。笑。
      そやね〜、周囲のやさしさに救われてるよ(^^;;ほんまに。
      運がえぇんやで、これまたほんまに。

      関西に観光で来るカナダ仲間にこの畑寄るように言うておくんなはれ(*^o^*)
      おんなじ空のした、お互いがんばろぅぜょ〜♪( ´θ`)ノ

      いいね

  3. 5 蓮胤 安宏 2011年2月2日 22:09

    芦田てる子 様

    一年振りでお懐かしく存じます、ドーラン化粧の印象が強くお会いしてもお顔が判らないと思います、きっとお互いに ・ ・ ・ ・ ・
    素晴らしい生きざまと云うか感激しました。
    それにしても強いですね ・ ・ ・ ・
    近日中に是非ともお目に掛れるよう念願いたしております。

                   蓮 胤 安 宏 拝

    ウエブサイト不明です、ごめんなさい。

    いいね

    • 6 てる子さん 2011年2月3日 10:35

      蓮胤さま☆ 閲覧とコメント、ありがとうございます。いえいえ、私はただの怠惰人間です。
            農業の始め方が立派でも何でもないので誤解を招かないために書きました。笑 
            先代が苦労されたんだと思います。
            そうですね、一年前が懐かしいですね!
            ぜひ次回、素顔でお会いできるのを楽しみにしています。

      いいね

  4. 7 mumin 2010年12月7日 21:55

    てるてるさん、本日はありがとうございました。
    私が想像した以上に頑張っている、てるてるさんに、ただ感動しました。久しぶりに「若者」の勇気を感じて、目頭があつくなりました。
    私も老体に鞭打って頑張る覚悟ができました、ありがとう、てるてるさん。

    いいね

    • 8 てる子さん 2010年12月7日 23:59

      mumin殿★ こちらこそ、muminさんの熱い応援、嬉しいかぎりです。ただ正確にはすでに「若者」の欄外ですので。笑。農業も地道に頑張るしかない世界なので、うちひしがれそうになったら遠慮なく嘆かせていただきますんで、その時は(も、ですね。笑)喝の一言よろしくお願いします。コメントありがとうございました☆

      いいね

  5. 9 ウーパーの嫁。 2010年10月12日 00:18

    泣きそうになりました。
    ほんとに、なにかとやってくれるね、ユーの家系は。

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    • 10 てる子さん 2010年10月12日 05:35

      ウーパーの嫁。たん★ 敬意も込めて、何かと頑張ってたカズオさんの場をつくってみた(^v^)。
      はじめに書いた時この三倍の文量やった。削りまくってまとめてみた。笑。
      読んでくれてありがとう!

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宝飾加工職人を目指す道すがら、
そもそも』などがきっかけとなり、
いろいろな想いも重なりながら野良作業を
始めた次第です。
当人、農力はまだ僅かで勉強中です。
当ブログはみなさんの閲覧&コメントに
励まされながら、畑はみなさんの援農で
続けることができています。
皮肉と笑いが満載の作物と必死にのんびり
暮らす生き物たちの世界を楽しんでもらえ
るよう、畑の風景を綴っていきます。
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